要人発言

2022-0608-前代未聞のラガルドブログ、9日にECBはどう動く

https://toyokeizai.net/articles/-/594896?page=2

政策理事会での決定前にブログという形で方針を明かし、物議を醸したラガルド総裁(写真:Bloomberg)

2022-5-23-Lagarde-say ユーロドル急騰の理由 ラガルドのコメント

https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2022-05-23/RCCBP0DWX2PW01 https://www.bloomberg.com/news/a ...

続きを見る

今週最大の注目点は6月9日に開催されるECB政策理事会だ。たいへん多くの照会をいただくので、ここでプレビューを示しておきたい。今回の政策理事会は5月23日にラガルドECB(欧州中央銀行)総裁の名で突如発表されて物議を醸したブログ『Monetary policy normalisation in the euro area(ユーロ圏の金融政策正常化)』の内容を追認するものになるはずである。

ブログの内容を最高意思決定機関である政策理事会が追認するという構図は本来あってはならないものといえるが、ブログ内で提示された3つの論点、①拡大資産購入プログラム(APP)は7月に終了、②初回利上げも7月に実施、③9月末にはマイナス金利も終了、はいずれも前回の政策理事会(4月13~14日)では明らかにされていなかったものであり、正式な場所で正式な決定を経る必要がある。

また、併せて発表されるユーロ圏経済に関するスタッフ見通しは、インフレ率の上振れを警戒するリスクシナリオも提示しつつ、景気見通しも3月時点よりも厳しい予測値になったと、強調することが予想される。そうでなければ7月にAPP終了と利上げ着手を同時に実現するという踏み込んだ対応は正当化できないはずだ。

利上げ幅は0.25ポイントにとどまるのか

今回、まだ金融市場では浮上しておらず、サプライズになりうる論点があるとすれば2つ。それは、①利上げの幅と②再投資停止の時期である。

まず①に関しては、オランダ中銀総裁などを筆頭に少なくない政策理事会メンバーから0.25%ポイントではなく0.5%ポイントの利上げを推す声が出ている。ブログの宣言どおり、現在マイナス0.50%の預金ファシリティ金利を2会合(7月と9月)でゼロ%以上に持っていくためには、0.25%ポイントずつの利上げが最もオーソドックスであり、今回の記者会見でもおそらくその質問が出るだろう。

仮に、ラガルド総裁の口から0.5%ポイントを否定しない発言が出れば域内金利およびユーロは騰勢を強めることになる。ラガルド総裁の以前の発言傾向を踏まえれば「0.25%ポイントもあれば、必要に応じて1%ポイントもあるかもしれない」といったような言質をまったく取らせない抽象的な語り口でお茶を濁す可能性が非常に高い。しかし、ブログというカジュアルな形式で突然重要情報を発信した今回の経緯を思えば、もはやなんでもありだろう。

注目点は「利上げ幅」と「再投資停止の時期」

もう1つの注目点は再投資停止の時期である。APPの終了時期とその後の利上げ時期に市場の注目が集まってきたこともあり、ECBのバランスシートについてはまだ予想形成が進んでいないように見受けられる。昨年12月の政策理事会でパンデミック緊急購入プログラム(PEPP)による保有資産の再投資を「最短でも2024年末まで(until at least the end of 2024)」という表現と共に1年間延長した経緯がある。

わざわざ「最短でも」と言いながら、これを2023年末や2022年末に前倒しするのは普通に考えれば朝令暮改の誹りを免れない。しかし、この間、「7~9月期中にAPPを停止して、しばらくしてから利上げに着手する」といったコミットメントが、ブログ1つで「すべて7月」に変わったことを踏まえれば、「事情が変わったので再投資停止も早めてよい」と割り切った対応に出る可能性は否定できない。

ブログの適否は当然問われることに

もう1つ、具体的な金融政策運営とは直接関わらないものの、やはりラガルドブログの一件についてはその適否を追及しようとする記者は現れる可能性がある。ECBがなぜブログという異例の形式を使ってまでタカ派へ急旋回を試みたのか、いまだに理由が判然としない。

ブログ公表後に明らかになった1~3月期のユーロ圏の妥結賃金統計や5月消費者物価指数(HICP)の跳ね方を見て焦燥感を覚えたという可能性はある(いずれの統計も事前にECBが結果を知っていたとして、の話だが)。もともと、「賃金がアメリカのように上がっているわけではないので、正常化は急ぐ必要がない」というのがECBの基本姿勢であっただけに、最近の失業率や賃金、サービス価格の動きは想定外の事象だった可能性がある。

一般物価の上昇が賃金の上昇に至り、「賃金上昇スパイラル(the resulting wage-price spiral)」となる展開はECB政策理事会議事要旨でも懸念されていた。そうなればインフレは持続性を持ってしまう。

しかしそうした問題意識があったとしても、正式な最高意思決定機関である政策理事会が存在する以上、臨時会合を開催すればよかった話である。前例としては、パンデミック緊急購入プログラム(PEPP)は定例会合(2020年3月12日)のわずか1週間後(3月18日)に臨時会合を開催して決定している。

緊急的に必要だというのであれば、そうした方法が定石であり、将来的に「ブログという方法があるかも」という疑念を市場に埋め込み、政策決定に関わる不透明感を生んでしまったという点で、望ましくない行為だったと筆者は考えている。

フォワードガイダンスのように口先だけで期待に働きかけようという政策運営を取っていた中で、こうした手法はノイズを増やしてしまう。この情報発信のまずさを批判する記者質問も、今回の政策理事会における1つの見どころになるように思える。

-要人発言